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研 究   (福島 邦彦, Kunihiko Fukushima)

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  ネオコグニトロンによるパターン認識


 ネオコグニトロンは,視覚神経系の性質をヒントに1979年に福島が提唱した視覚パターン認識機構のモデルである. 視覚神経系に関する Hubel-Wiesel の古典的階層仮説に類似した多層の階層型構造を持ち,パターンの変形にも強いパターン認識能力を,学習によって自己組織的に獲得していく.

 このネオコグニトロンの回路構造と学習方式に改良を加え,実際の脳の視覚系により近づけるとともに,パターン認識能力を大幅に向上させる研究を進めている.

 例えばネオコグニトロンの原理を用いたパターン認識システムでは,手書き数字の大規模データベース ETL1 (旧電総研で作成したデータベース)を用いた実験で,学習に用いなかった未知のテストパターンに対して 99.7% 以上の認識率を得ている.

 
 
ネオコグニトロンによる手書き数字認識のシミュレーション.


文献
  • K. Fukushima: "Neocognitron: A self-organizing neural network model for a mechanism of pattern recognition unaffected by shift in position", Biological Cybernetics, 36[4], pp. 193-202 (April 1980).
    http://dx.doi.org/10.1007/BF00344251
  • K. Fukushima: "Artificial vision by multi-layered neural networks: neocognitron and its advances", Neural Networks, 37, pp. 103-119 (Jan. 2013).
    http://dx.doi.org/10.1016/j.neunet.2012.09.016

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  部分的に隠されたパターンの認識と修復


 われわれは,ほかの物体で部分的に隠されているパターンを見たときに,隠している物体が見えれば隠れているパターンが何であるかを容易に理解することが出来るが,隠している物体が見えないとパターンが何であるかが分からなくなることが多い.

 このような現象を説明する仮説を立てて,人間の視覚と同じような反応を示すモデルを提唱した. また,この回路に,トップダウンの信号経路を追加して,隠れたパターンを認識するだけでなく,隠されている個所の形状を修復することも出来るように発展させた.

 
 
一部が隠されたパターン(U0)を認識し,
隠されている個所の形状を修復する神経回路モデル.
修復結果(W0)の例.まだ学習したことのない変形パターンも修復できる.


文献

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  オプティックフローを抽出する神経回路モデル


 生理学の実験によると,サルの大脳の MST 野と呼ばれる個所には,大視野の回転や拡大縮小などに選択的に反応すす神経細胞があり,それらの細胞は optic flow の中心の位置には影響されずに反応すると報告されている. そのような細胞の働きを説明できる神経回路モデルを作った.

このモデルは,原理的には,ベクトル解析で使われる rot や div などの演算を神経回路が行なっているという仮説に基づいて作られている. この考え方は,ロボットビジョンなど広い範囲への応用も考えられる.

 
 
Optic flow を抽出する神経回路モデルの計算機シミュレーションの一例.
反時計回りに回転するランダムドットパターン(左端)に反応して,
回転抽出細胞(右端)が反応している.


文献

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  画像の対称軸を抽出する神経回路


 この神経回路は,幾何学的図形からだけでなく,デジタルカメラで撮影した中間調(灰色)やテクスチャーのある複雑な画像からも,対称軸を正しく抽出できる.

入力パターンが2本以上の対称軸を持っていても,それらすべての対称軸が抽出される. このとき,わずかな変形や輝度の違いなどにもとづく微細な非対称性には影響されずに,対称軸が抽出できる.

 
 
ぼけを利用した対称軸抽出.
CCDカメラで撮影した中間調(灰色)やテクスチャーのある複雑な画像や,
多少の非対称性を含む画像の対称軸も正しく抽出している.


 一般に視覚系では,ある種の "ぼかし" 処理が情報処理能力の向上に役立っている. パターンをぼかすと情報処理能力が損なわれるように感じられるかもしれないが,ぼけが適切に導入されると,神経回路の柔軟性が大幅に向上し,かつ神経回路に要求される計算量が大幅に減少する.
 ぼかしが役立つのは画像やパターンを比較する場合である. 視覚情報処理では往々にして,二つのパターンが同一か異なるかを判断する必要が生じる. パターンを認識するためには,入力パターンを,過去に見たことのある学習パターンの集合と比較しなければならない. このような比較において,画像の多少の変形やノイズなどは許容する必要がある.
 例えば文字認識であれば,同じ人でも全く同一の文字を書く可能性はほとんどないので,常に多少の変形があることを前提に比較しなければならない. 演算コストも重要な問題である. ネオコグニトロンもこのようなぼかしを有効に利用してロバストな視覚パターン認識を行なっているシステムであると解釈することも出来る.
 対称軸抽出問題も,やはりぼけの導入によって解決することができる.



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